はじめに
外国人技能実習機構が初めて発表した資料です。
実習実施者は、技能実習を行わせたときは技能実習の実施状況に関する報告書(実施状況報告書)を毎年4月1日から5月31日までに、直近の技能実習事業年度(4月1日に始まり翌年3月31日に終わる技能実習に関する事業年度)について作成し、外国人技能実習機構に提出することとされています。
その報告内容を取りまとめたのが今回発表した資料です。
全国の実習実施者数
過去の記事で
【技能実習】会計検査院発表資料でわかった外国人技能実習機構のこと
会計検査院からの発表を利用して概数約66,000と判明していましたが、今回は機構から正式に発表資料されました。
令和元年度に実際に技能実習生が在籍していた実習実施者数は63,224件でした。
各都道府県が知りたいのは、技能実習生がいる事業所が各都道府県にどのくらいあるのかだと思います。認定申請は登記簿上の本店所在地としていて、実施状況報告も本店所在地の地方事務所に提出しているのだから、技能実習生がいない地方事務所に提出している報告も数多くあるでしょう。そんな技能実習生の所在が正確に反映していない資料は国レベルでしか役に立ちません。
業種別実習実施者数
業種別の統計を作成しています。これは1つの実習実施者で複数職種の技能実習を行っている場合があるので実習実施者の「業種」別の統計としたようです。
令和元年度業種別実習実施者数
業種 | 実習実施者数 | 構成比(%) | |
農業,林業 | 10,945 | 17.3% | |
耕種農業 | 8,768 | 13.9% | |
畜産農業 | 2,109 | 3.3% | |
その他 | 68 | 0.1% | |
漁業 | 1,120 | 1.8% | |
海面養殖業 | 561 | 0.9% | |
海面漁業 | 524 | 0.8% | |
その他 | 35 | 0.1% | |
建設業 | 22,376 | 35.4% | |
とび・土工・コンクリート工事業 | 5,987 | 9.5% | |
鉄骨・鉄筋工事業 | 2,358 | 3.7% | |
大工工事業 | 2,262 | 3.6% | |
一般土木建築工事業 | 2,217 | 3.5% | |
その他の職別工事業 | 1,384 | 2.2% | |
その他 | 8,168 | 12.9% | |
製造業 | 23,615 | 37.4% | |
外衣・シャツ製造業(和式を除く) | 2,388 | 3.8% | |
水産食料品製造業 | 2,014 | 3.2% | |
その他の食料品製造業 | 1,613 | 2.6% | |
自動車・同附属品製造業 | 1,517 | 2.4% | |
建設用・建築用金属製品製造業(製缶板金業を含む) | 1,417 | 2.2% | |
その他 | 14,666 | 23.2% | |
医療,福祉 | 1,395 | 2.2% | |
老人福祉・介護事業 | 1,207 | 1.9% | |
病院 | 121 | 0.2% | |
その他 | 67 | 0.1% | |
サービス業(他に | 1,621 | 2.6% | |
分類されないもの) | 自動車整備業 | 860 | 1.4% |
建物サービス業 | 474 | 0.7% | |
その他 | 287 | 0.5% | |
その他 | 2,152 | 3.4% | |
合計 | 63,224 | 100.0% |
実習実施者の業種を分類されても使い道がないです。通常の業務統計が職種別計画認定件数を発表しているのであれば、実習実施者数がダブルカウントになったとしても、職種別実習実施者数を公表して欲しいところです。令和元年度の認定件数366,167件から今回発表した表から概算すると、次のとおりです。
認定業種割合 | 認定件数 | 実施者数 | 1実施者あたり平均人数 | |
農業 | 8.9% | 32,589 | 10,945 | 2.98 |
漁業 | 0.8% | 2,929 | 1,120 | 2.62 |
食料品 | 18.8% | 68,839 | 3,627 | 18.98 |
建設 | 20.8% | 76,163 | 22,376 | 3.40 |
繊維 | 6.6% | 24,167 | 2,388 | 10.12 |
機械金属 | 16.1% | 58,953 | 19,988 | 2.95 |
その他 | 28.2% | 103,259 | 2,780 | 37.14 |
技能検定等受験状況
ほとんどの技能実習計画が技能検定等合格を目標としていますが、技能実習を修了しているにもかかわらず、受験しない者がいることがわかります。
令和元年度 技能検定等受検状況
試験区分 | 修了者数(A) | うち受検者数(B) | うち合格者数(C) | 合格率 (C/B) |
受検率(B/A) | |
基礎級程度 (第1号修了者) |
実技学科 | 155,906人 |
152,588人 151,267人 |
151,751人 150,049人 |
99.5% 99.2% |
97.9% 97.0% |
3級程度 (第2号修了者) |
実技 |
74,336人 |
71,491人 |
66,161人 |
92.5% |
96.2% |
2級程度 (第3号修了者) |
実技 |
813人 |
708人 |
498人 |
70.3% |
87.1% |
2号修了者の合格率、3号修了者の合格率と受験率を見ると、技能実習制度の存続に疑問がありますね。特に優良といわれている3号技能実習を行う実習実施者が受験すらさせていないというのは問題でしょう。
業種別技能実習生の労働時間(技能実習の段階別)
超過実労働は普通に行われているようです
令和元年度 業種別技能実習生の労働時間(技能実習の段階別)
第1号技能実習 | |||
実労働日数(日/月) |
労働時間(時間 | /月) | |
所定内実労働 | 超過実労働 | ||
農業,林業 | 22.9 | 160.9 | 29.3 |
漁業 | 22.1 | 160.5 | 26.1 |
建設業 | 21.3 | 154.8 | 16.5 |
製造業 | 20.8 | 160.7 | 25.2 |
医療,福祉 | 19.7 | 154.3 | 2.4 |
サービス業(他に分類されないもの) | 20.9 | 156.1 | 14.3 |
その他 | 21.0 | 159.5 | 23.9 |
全業種 | 21.1 | 159.2 | 22.6 |
第2号技能実習 | |||
実労働日数(日/月) |
労働時間(時間 | /月) | |
所定内実労働 | 超過実労働 | ||
農業,林業 | 22.3 | 156.8 | 28.2 |
漁業 | 20.9 | 154.0 | 17.2 |
建設業 | 21.3 | 153.7 | 20.6 |
製造業 | 19.8 | 153.0 | 28.3 |
医療,福祉 | 19.1 | 149.7 | 6.1 |
サービス業(他に分類されないもの) | 19.9 | 148.9 | 21.1 |
その他 | 21.4 | 163.7 | 28.3 |
全業種 | 20.4 | 153.4 | 26.3 |
第3号技能実習 | |||
実労働日数(日/月) |
労働時間(時間 | /月) | |
所定内実労働 | 超過実労働 | ||
農業,林業 | 20.6 | 146.9 | 27.2 |
漁業 | 20.7 | 154.1 | 17.0 |
建設業 | 20.6 | 149.8 | 19.9 |
製造業 | 20.6 | 158.9 | 31.0 |
医療,福祉 | |||
サービス業(他に分類されないもの) | 19.0 | 144.1 | 23.5 |
その他 | 20.7 | 157.4 | 27.9 |
全業種 | 20.6 | 155.5 | 27.6 |
これは職種別に把握しないと全く意味ないでしょう。しかも所定内実労働時間少な過ぎません?計画作るとき週40時間換算で170時間程度にしてるところが多いと思うけどなぁ。この報告書の内容を信じているのが間違いかもね。
令和元年度 業種別第1号技能実習生の給与支給額及び控除額
これはデータは貼り付けませんが、この給与支給額と所定内実労働時間から計算すると第1号技能実習生で時給920円ぐらいになります。昨年の最低賃金の47都道府県の単純平均額844円から考えると、最低賃金額より1割近く高くなっています。
この給与支給額を月平均法定労働時間173.75時間から計算すると842円程度になり、最低賃金平均額を下回ります。労働時間のデータ本当に大丈夫でしょうか?
技能実習生の昇給率
この数字だけ発表されてもどのように理解すればいいのでしょうか。
令和元年度 技能実習生の昇給率
昇給率(%) | 実習実施者数 | |
第2号移行時 | 第3号移行時 | |
10.0超 | 2,281 | 2,954 |
5.0超~10.0以下 | 3,220 | 1,287 |
5.0以下 | 12,923 | 2,471 |
実習実施者計 | 18,424 | 6,712 |
会計検査院の発表資料によると令和元年に技能実習を開始した実習実施者は16,675件なので、残り46,549件が2号以降の技能実習を行っている実習実施者となります。そのうち18,424件が昇級ありと回答したということです。つまり、6割の実習実施者が技能実習の段階が進んでも昇級していないということです。
令和元年度 都道府県別監理団体数・監理事業所数
はじめて監理事業所数が公表されています。
団体数 | 事業所数 | |
一般 | 1,485 | 1,697 |
特定 | 1,421 | 1,468 |
総数 | 2,906 | 3,165 |
事業所数が思った以上に少なかったですね。監理責任者が常駐している場所から離れている駐在事務所は管理責任者の指揮の下にあるといえないと明確にしないとダメでしょう。
監理団体(監理事業所)の活動状況
監理団体(監理事業所) | ||
総数 | 実績あり | 実績なし |
2,903(3,162) | 2,502(2,728) | 401(434) |
構成比 | 86.2%(86.3%) | 13.8%(13.7%) |
監理団体許可リストで監理団体を探すことを考えると、機構も活動していない団体は明確にして欲しいところです。事業所の所在地も公表していただきたいですね。
監理事業所ごとの技能実習生数
実習監理した技能実習生数 | 監理事業所数 | 構成比 | |
1人以上100人未満 | 1,501 | 55.0% | |
100人以上500人未満 | 1,014 | 37.2% | |
500人以上1,000人未満 | 151 | 5.5% | |
1,000人以上1,500人未満 | 38 | 1.4% | |
1,500人以上2,000人未満 | 14 | 0.5% | |
2,000人以上2,500人未満 | 4 | 0.1% | |
2,500人以上3,000人未満 | 4 | 0.1% | |
3,000人以上3,500人未満 | 0 | 0.0% | |
3,500人以上4,000人未満 | 2 | 0.1% | |
合計 | 2,728 | 100.0% |
監理事業所の規模が判らないとなんとも評価しようがないデータです。担当職員1人あたりの技能実習生数が知りたいところです。
技能実習生一人当たりの月額監理費
実習実施者は監理団体からどの程度請求額されるのかが判ります。
技能実習生一人当たりの月額監理費 | 監理事業所数 | 構成比 |
0円以上2万円未満 | 548 | 20.1% |
2万円以上4万円未満 | 1,706 | 62.5% |
4万円以上6万円未満 | 421 | 15.4% |
6万円以上8万円未満 | 37 | 1.4% |
8万円以上10万円未満 | 14 | 0.5% |
10万円以上12万円以下 | 2 | 0.1% |
合計 | 2,728 | 100.0% |
事業報告書は技能実習生の号別に報告させているのになぜまとめて発表しているのでしょうか?
まとめ
きっと適当な報告ばかりだったものを取りまとめて発表してくれたことに敬意を表します。
次の段階として、実習実施者と監理団体からの報告内容を見直して、実際に技能実習が行われている場所がどこで、どのような実態にあるのか。
監理団体の実際の担当者一人当たり何人の技能実習生を監理しているのか。徴収している費用がどのような内訳となっているのか実務に役立つ発表となることに期待したいと思います。
せめて業務統計と分類を同じくしてくれないかなぁ。
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