回答
主には
1 1日8時間、1週40時間を超えて働かせた時間について、2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていない
2 法定休日に働かせた時間について、3割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていない
3 午後10時から午前5時までの深夜の時間帯で働かせた時間について、2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていない
4 手当を割増賃金の基礎となる賃金に算入していない
5 月60時間を超えて働かせた時間について、5割以上の率で計算した割増賃金を支払っていない(中小企業は2023年4月1日から適用)
などがあります。
毎年、厚生労働省のホームページで、「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」が発表されています。これは技能実習生に対する違反に限らず実習実施者に対して行われたものです。令和元年度において「割増賃金の支払」は16.3%の実習実施者で違反が指摘されています。
公表資料には解説がないので、ここで簡単に説明します。
割増賃金について
労働基準法に次のような規定があります
第37条 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 ② 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。 ③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第39条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。 ④ 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 ⑤ 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。 |
この条文を要約したものが回答の内容です。
時間外労働の割増賃金
時間外労働の割増賃金を指導されないためには、労働時間を適切に把握する必要があります。
実習実施者の所定時間が1日7時間で、週に5日勤務の場合だと、1日に1時間、所定時間を超えて働かせたとしても、1日8時間、1週40時間を超えていないため、割増しする必要はありませんが、1時間多く働いているため、その1時間分の賃金は支払う必要があります。
もし、これを支払っていない場合は、賃金不払となります。
法定休日の割増賃金
休日には、法律により義務づけられている法定休日と会社で設定している所定休日があります。
法定休日は労働基準法第35条にあります。
第35条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日を与えなければならない。 ② 前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。 |
法定休日は週に1回だけど、4週に4日でもいいよということです。
会社の休日が土曜と日曜の場合、休日出勤しても、法定休日なのか所定休日なのかをあらかじめ決めておかないと、4週に4日確保できなくなった日が休日労働ということになります。
4週の起算点を決めておかないと計算できなくなるため、「我が社は日曜日を法定休日とする」と決めておいた方が計算が楽です。
この法定休日に働かせた場合は3割5分以上の割増率で、それ以外の所定休日は、1週40時間を超えたところから、時間外労働としての2割5分以上の割増率での計算が必要です。
振替休日と代休
休日出勤させた後に「明日休んでいいよ」というのが代休で、「今週の水曜日休んで日曜日出勤してくれ」というのが振替休日です。
事前に特定しているかどうかの違いです。休日を振り替えすることがあることは、就業規則などで事前に従業員に周知する必要があります。
振替休日で週の労働時間が変わらない場合は割増賃金不要ですが、変わる場合は休ませたとしても割増分のみ支払いが必要となります。
代休は当然割増分の支払いが常に必要です。
深夜労働の割増賃金
基本的に技能実習生が深夜労働を行うことは予定されていませんが、午後10時から午前5時までの時間はいつでも割増賃金が必要です。
通常は時間外労働が深夜に及ぶことになると思いますので、時間外労働の2割5分以上+深夜労働の2割5分以上の併せて5割以上の割増が必要となります。
休日労働が深夜までだと6割以上が必要です。
所定時間が深夜労働出会った場合は、割増分のみ支払いが必要です。
出典:東京労働局ホームページ「働き方のルール~労働基準法のあらまし」
手当の基礎賃金算入
割増賃金を計算するときに、諸手当は基本的に算入しなければなりません。例外的に算入しなくてもいい手当が労働基準法施行規則に定められています。
第21条 法第37条第5項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第4項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。 1 別居手当 2 子女教育手当3 住宅手当4 臨時に支払われた賃金5 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金 |
これらの手当は名称ではなく、手当の実態によって判断されます。そうしないと、これらの名称で手当を払えば、残業手当の単価を下げることができることになります。
家族手当・・・扶養家族数などに応じて算出する手当
通勤手当・・・通勤距離とか通勤に要する費用に応じて算定する手当
別居手当・・・単身赴任手当など個人的な事情によって算定する手当
子女教育手当・・・個人的な事情によって算定する手当
住宅手当・・・住宅に要する費用に応じて算定する手当
臨時に支払われた賃金・・・結婚手当など臨時的、突発的事由に基づいて支払われたもの
1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金・・・賞与など算定期間が1か月を超えて算定するもの
一律1万円など一定額に設定されている手当は、名称が住宅手当でも算入しないと違反となります。
月60時間超えの割増賃金
回答のとおりですが、技能実習生の残業時間は一般の限度時間である月45時間以内で管理すべきです。
割増賃金の計算
1時間あたりの基本単価を算出して、それに割増率を掛けます。
出典:東京労働局ホームページ「働き方のルール~労働基準法のあらまし」
賃金計算の端数の取扱い
1月単位での端数処理は認められますが、1日単位でそれを行うと違反と指摘されます。働いた時間は労働者が損しないような計算が基本です。切り捨て処理しないようにしましょう。
許される端数処理の例
(1)1か月の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。
(2)1時間当たりの割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
(3)1か月おける割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
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